top of page

邂逅

更新日:2018年9月18日

大審院が書きたいが裁判所構成法が分からない→法ロジの彼とクロスオーバーさせよう!とかいうトンデモ時空が爆誕。

 

仕事の気分転換に外に行こうかと自室を出た大審院が歩いていると、辺りを見回しながらうろうろしている子供が視界に入った。

「おや?」

何やら廊下を行ったり戻ったりを繰り返しては肩を落としている。見かねて子供のいる方へ向かうと、足音に気が付いたのかはっと振り返って軽い会釈をした。律儀な子のようだが不安そうな様子は隠し切れず、大人びた中に垣間見える年齢相応の幼さが微笑ましい。背丈はおおよそ大審院の腰くらいだろうか、法服をベースにしたような裾の長い服を身に着けていた。

(裁判所に関わる法案、といったところか。恐らくは――)

心当たりを探っていると自らを見上げているその子と目が合う。

「こんにちは。迷ってしまったかな。何分此処は広い。私で良ければ案内してあげられるが」

その通りで、もと来た道が分からなくなってしまったと子供は恥ずかしそうに告白した。

「そうか。……おっと、まだ名を伝えていなかった。私は大審院と云う」

「大審院さん」

「呼び捨てで構わない。恐らくは、私の上司ということになるのだろうから」

「……わたしが上司、ですか。 なぜ?」

「いずれ解る」

糸目を丸くさせてきょとんとしているのを見て、それもそうだろうと思いながらも大審院は敢えて明言を避ける。他の、彼をよく知る法――法に限らないが――が聞けば、これだからあの人はと思うのだろう。

「そうでした、私も名前を…ええと、裁判所構成法といいます」

「ふむ。裁判所構成法、か……了解した。案内しよう」

見立てが合っていたのか否か、思案するような間はあったものの表情ひとつ変えずに大審院は頷いた。彼の部屋は分からなくても、本来一緒にいるはずの人に会わせることができれば、後は任せてしまえばいいだけだ。

「ありがとうございます」

「礼には及ばない」

そもそもまだ何もしていないと大審院は首を横に振ると、普段よりペースを落として歩き出した。今二人がいるのは近代化が叫ばれると共に造られるようになった赤煉瓦建築の建物で、壁には特徴的なアーチ型の窓が並んでいる。裁判所構成法の話によると普段過ごしているのは別の場所なのだが用事で大審院のいるこの庁舎に連れて来られたとかで、時折物珍しそうに装飾を眺めながらも遅れないようにしっかり大審院の後をついてくる。

「しかし珍しい。世話人が余程いい加減なのか」

「めずらしいとは?」

「そのしっかりとした様子では、迷子になるとはとても思えなかったのでな」

褒められたのが分かったのか、それとも迷子という言葉に反応したのか。恐らく両方なのだろう裁判所構成法は決まりが悪そうに俯いている。

「貴法を責めているのでは無い」

「でも、勝手に出歩いてしまったのはわたしなので」

「好奇心が旺盛なのは喜ばしいことだ」

廊下を最後までわたって階段を降りていく。

「あの、わたしにもよく分からないのですが、少しおもったことがあって」

「如何した」

「大審院さ…大審院とこうして話していると何だか落ち着くんです。安心できる、といいますか」

言われた彼は微かに目を見張ったあとで、どうすべきか迷ったように苦笑した。

「……何故か私と話す者は皆そのように言う」

「なるほど。それをきいて納得がいきました」

幼い裁判所構成法は目を細めてにっこりと笑っている。

「それで、あなたもわたしもおなじような服だから、わたしが施行された後、もしあなたがいるところで仕事できれば心強いのにと」

「それは有難い。願いが叶うと良いな」

玄関の近くまで来たところで大審院は足を止める。それとほぼ同時に目の前を忙しなく歩いていた男の大きな声が耳に飛び込んできた。

「どこに行ってしまったかと思ったよ」

「すみません……」

弱々しく声を出す裁判所構成法の頭を男はそっと撫でた。

「いいや、無事で何よりだ。大審院もわざわざ申し訳ない」

手の掛からない子だからつい長い間目を離してしまったという。

「気に病むな。まあ、他所ではあるまいし盗まれることもそう無かろう」

それは極めて軽い調子だったのだが、男は即座に咳払いをした。

「その話は勘弁してください」

「失敬、戯言が過ぎた。…では、私はこれで」

踵を返すと後ろから名前を呼ばれて立ち止まる。

「大審院」

緊張と期待が混じった声だった。

「また今度」

ふっと笑みを浮かべ、大審院は小さく手をあげた。

「ああ。又会おう」





------


「裁判所構成法なら此方に来ているが」

「えっ」

「丁度、貴方がたから承諾が得られたら私が面倒を見ようかと思っていたところだ」

「いやしかしあれはまだ法案で」

「その通りだが、彼が此方に住みたがっているようでな。入用の際は連絡してもらえれば必ず寄越すし迎えも遣る。これで問題は無いだろう」

「大審院は本当に何というか、好かれているのだな。司法の頂点に立つものとして喜ばしいことだ」

「さて、何の事やら」


 

Comments


bottom of page