※裁判所構成法(法ロジ)×大審院(法プラ)
今年の三月(法プラ構成法を拝見する直前)に「見よう見まねでいいからR18が書きたい!」と思い立ったものの、オチが見つからず放置してあったのをどうにか終わらせたのでこの二人です。もうこれで最後にしたい……。
で、続きを書いていくうちに司法省×大審院(同意の元ではあるけどかなり一方的で酷いやつ)要素が入り、いわゆるお清めえっち?的に。ところが導入に治罪法と構成法の絡みを入れていたことにあらかた書いてから気付きまして……本当に都合の良い要素だけを取り込みやがったぞこいつ……法ロジと機関プラスのクロスオーバーということにでもしておいて下さい(死んだ目)
厳密には兄とは違うものの、何となく親戚のお兄さんくらいの感覚でいる治罪法よりも背が高くなって久しい。一応「裁判所構成法」という名前は貰ったが、未だ公布には至っていない。とはいえ政府が外国と対等に渡りあう為に急いで準備を進めているところだから、そう時間は掛からないだろう。
幼い私が治罪法の首筋に残る赤い痕を指差して尋ねたことがある。彼は珍しく目を丸くして黙り込んだ。良くないことを聞いてしまったかと後悔しながら返事を待っていると、ゆっくり口を開いて「……好きな人にしてもらうおまじない」とだけ坦々と言ったのだった。今思えば他に誤魔化しようもあっただろうに、嘘がつけないところは彼らしい。それとも、何も知らない私を相手に少しは惚気ける気にでもなったのか。
私が大審院に好意を抱くのは、生まれたばかりの雛が親に懐くのに等しいと思っていた。物心ついた頃には彼といつも一緒で、人を裁くとはどういうことか、たくさんのことを教えてもらった。保護者であり先生でもあるような人だった。
「やりたいの?」
そういえば大審院が好きって言ってたね。と治罪法は着流しでワイングラスを手に持つという若干ちぐはぐな格好で言った。
彼に触りたい。彼に感じたい。彼に気持ちよくなって欲しい。気付けばそんな欲情を自覚してしまった。
欲だけで心の中に留めておけば良かったのに、「そういうことをしてみたい」とうっかり本人の前で口走ってしまったのがいけなかった。
努めて冗談交じりに誤魔化しながら言ったのに、そもそも好意も全部見透かされていたようで何の意味もなかった。
……治罪法が変に気を利かせたとかでは無い、だろう。恐らく。多分。
明かりを落とした部屋の寝台で大審院と二人きりという現実を、私は何とか飲み込んだ。これは幻覚でも夢でもない。
そっと手を伸ばして初めに触れたのは髪だった。いつも後ろにゆるくまとめられているそれは、今日はそのまま垂れ下がっている。
「今日は結わえていないんですね」
「結った方が良かったか?」
「……」
「解いてみたかったです、なんて」
「そうか、次からはそうしよう」
特に驚いたふうもなく答える。次なんてと口ごもると、もしあったらの話だと笑った。どこまで冗談かよくわからない人だ。
不意に顔がぐっと近づいて、触れていた髪の感触が意識の外に追いやられる。
深い紅の双眸が私を捉えていた。綺麗な瞳に魅入られるように大審院の頬に掌をあて、そのまま手櫛を通すようにまた触った。
「そんなに私の髪が好きか」
「とても」
大審院の髪はさらさらと呼ぶには少しかたいが、それでも私には羨ましいものだった。無い物ねだりというやつだ。
すると彼も真似をするように私の癖っ毛を指先でくるくると弄び始めた。何が面白いのだろうかと思ってから、大審院も同じ気持ちなのだろうと自己解決する。
私がずっと髪ばかり触っているので、彼は笑いながら水を向けてきた。
「如何した? 折角斯うして二人寝台にいるのだ。何を遠慮することがある」
突然耳元で囁くものだから、一気に心臓が跳ね上がる。私が彼に見蕩れているのを知っていてわざと言うのが狡い人だ。どんどん自分のペースに引き込んでいってしまう。
勢いに乗せられてたまらず大審院の目にキスを落とす。キスは場所によって意味が変わるなどという話を耳にしたことがあったが、さてこれは何だったか。
キスの意味も、こういう場での作法も知らない。毒を食らわば皿まで、この際私がやりたいことをやってやろうと腹を括る。理性などというものはもうほとんど意味をなさなくなった。
「あなたの髪も目もその声も何もかもが好きだ。出来るならすべて私のものにしたいくらいに」
話しながらいつの間にか敬語が落ちていることに気付き、しまったと思ったがもう遅い。当の大審院は気にする様子もなく、それどころか満足そうに私を見ていた。
「そうか、私が欲しいか。ならばもっと私が君のものになる方法を教えてあげよう」
おもむろに背中に手をやったかと思うとするすると帯をほどいて浴衣を脱いだ。体格はどう見ても男のそれなのに、私に言わせれば女性と見紛いそうな整った顔立ちをしている。所作はがさつではないが特別丁寧でもない。自分の外見には無頓着な人だと思う。
私に好かれていることは知っているし時にはそれを利用すらしても、なぜ好かれるのかは分からないという。いずれにせよ、私にとっては大審院が大審院というだけで見蕩れるのには充分な理由だから瑣末なことだ。
促されるように今度は私が長襦袢の腰紐を解く。脱がせると露になった脚に何とはなしにいけないことをしている心持ちになるが、肌襦袢にかける手は止まらなかった。いくら目を背けようと私はこの人に触れたくて仕方なかったのだ。
どこをどうすれば感じるとかいうことも分からないまま、首、肩、腕にかけてあちこち触れる。自分の手のひらから直に大審院の熱を感じられることが、こんなにドキドキすることだとは知らなかった。
ふいに治罪法が痕をつけられていた話を思い出して首筋に軽いキスを落とす。
「あれも言っていたが、我々の服は肌がほぼ出ないから隠すのにはうってつけだな」
「そんなつもりでは」
咄嗟に答えて、嘘をついた自分に内心で嘲笑った。それでも彼に触れる手が止まることはなく、今度は横髪をかきあげて耳にそっと息を吹きかけてみる。微かに肩が動いたのが分かって、興奮すると同時に味を占めてしまった。普段髪に隠れて外気に触れないから敏感になっているのかもしれない。面白くなって、唇ではんだり、舌先でちろちろと撫ぜたりを繰り返す。
(顔が赤い……)
この程度では彼はほとんど嬌声は出さないが、ちょっとした息遣いや肌の火照りすらも誤魔化そうとするにはあまりにも距離が近すぎた。それだけでも私の欲情は否が応でも昂っていく。
「だいしん、いん」
面と向かってお互いの息を溶かしあう。喜びと罪悪感が混ぜこぜになった自分は、どんな顔をすればいいのか分からなかった。或いは熱っぽい視線が隠せていなかったかもしれない。大審院は苦笑して私の手を取った。
「優しいな。触れた指先からそれが伝わってくる。私には勿体無い程だ」
「何を言いますか」
彼がされていたことを思うとますます丁重に扱いたくもなるものだ。
だというのに本人は全く意に介さず、目の前にあるものをすべて受け容れてしまう。
「それで私の主張が通るなら安いものさ」
「あの人は、あなたに欲情していたのならまだしも、辱めるためだけにやっていたんですよ!?」
自尊心というものは無いのですか。そう言おうとしてすんでの所で踏みとどまった。無いわけはない。大審院は形式上は最高裁判所だが、実際の地位は明らかに足元を見られている。規定を用意しながら実態が伴っていないことが、私にはやりきれなくて仕方がなかった。
そのままなし崩し的に上体を押し倒す。着物の下で股間が疼くのがわかって内心苦笑した。そういえば自分も脱ぐべきだったのかもしれないが、今更煩わしくてそのまま続けることにする。
頬、首筋、鎖骨と下ってゆき、愛撫する手は胸の丸い突起に到達した。柔らかくて綺麗なピンク色のそれは、自分のそれとは全くの別物のようにも感じられる。初めはやや抵抗があったものの、捻ったりぐりぐりと弄ると彼は今までとは明らかに違う声を漏らした。
「……んっ、ぁ」
ふと下に目をやると彼も勃起していることに気付き、嬉しさと恥ずかしさで何も考えられなくなった。着物越しだが、こちらのソレも彼には見えているだろう。
「……触らないのか?」
大審院は自身のソレを一瞥して事も無げに言う。
「優しい貴法のことだから躊躇っているのだろう。案じることは無い。私も感じたいんだ」
私が大審院で感じたいだけなのに、口だけでもその言葉が嬉しくて自分が情けなくなる。
ソレを掴んで自分でもやるように上下に擦ると、彼は次第に腰を振り始めた。色気を含んだ動きはますます私を煽る。
そのまま後ろもほぐそうとして、私は漸く香油の類を用意しなかったことに気付いた。あの人にどこまで行為をされたのか確認したことはないが、きっと最後までしたのだろう。一度は(そして恐らくは何回も)受け容れたのだから思い悩むこともないかもしれないが、とはいえ女性とは身体の造りが違うのだから、このまま挑むのは躊躇われる。
考え込んでいるのが顔に出ていたのか、大審院はにっと笑った。
「潤滑油なら無くとも問題なかろう。あれによく弄られたからな」
余計なことを言わせてしまった罪悪感と本当にそうされていたという事実にかっと顔が熱くなる。ないよりはマシなはずと指先を口に含み、よく湿らせてから差し込んだ。
悲しいかな、案の定中に入れるのはさほど苦労しなかった。ゆっくりと内側の良い場所を探りながら、少しでも痛みが紛れるようにと前のソレも一緒に擦る。
考えたくもない話だが――普段あれほど厄介に思う相手をここまで調教することができたなら、さぞや優越感に浸ることができただろう。そう思ってしまうほどには、大審院は後ろを刺激されることに慣れきっていた。
どれだけ善人ぶろうと、所詮私はあの人と同じことをしているのだ。目を逸らしてきた事実が何度も私を襲っては首を絞める。
「あっ…もっと、んぁ、っ」
私も男なので、後ろを解すのに比べてモノの扱いはよく分かっている。これは出るなと思った瞬間、私は咄嗟に彼のソレを咥えていた。
「まっ、なにを、」
自分でも何をやっているのかと内心で呆れたが、彼の体液を飲む行為に満たされてしまったのも事実だ。そのまま陰部にゆっくりと舌を這わせる。
「……なぜ、入れないんだ」
細切れに息を吐きながら溶けるような瞳でこちらを見ていた。
「私ばかりきもちよくなってどうする」
「そんなあなたを独り占めするだけで充分です」
「だめだ。……いいから、中に、」
呂律の回りきらない声で縋るように言われて、私は耐えられなかった。
「痛いときはどうかすぐに言ってください」
一通りのことと後片付けが終わって、彼と同じ布団を被った。すっかり夜は更け、もう少しで朝方とも呼べるような時間に差し掛かっている。やはり休みの前日を選んで幸いだった。
……ろくに話をせず寝てしまうのもどうかと思うが、襲ってきた眠気は如何ともし難い。大審院とは明日話をさせてもらうとして、このまま疲れに沈む体に身を任せよう。長い沈黙の中でそこまで考えたところで、大審院が仰向けのまま口を開いた。
「全く、貴法は私を気持ち良くさせることしか考えていないのだから」
「そうでなかったら、私がしたことはあの人と全く同じじゃあないですか」
「何が同じであるものか」
彼にしては強い語気だったが、私の声が明らかに眠気を含んでいたからか直後に調子が和らいだ気配も感じた。もう寝なさいと子供を諭すように、私の頭をぽんぽんと撫でる。貴法は目が細いから寝ているのか起きているのか分からんな、などと笑いながら、今にも意識を手放しそうな私に優しく言葉をかけた。
「私にとって、裁判所構成法と行為をすることこそに意味があるということを理解して欲しい。貴法が私に気持ち良くなって欲しいと思うのと同じように、私は貴法にも――……」
了
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